2016年11月23日水曜日

VWの新型ティグアン ある意味でSUVの常識を越えた!?

  まもなく日本でも発売されるであろうVWのミドルサイズのSUVである新型ティグアンが、なかなかとんでもないことをやってのけました。SUVとしては異例のユーロNCAPによる衝突安全基準でハイスコアを出しました。2016年測定車の中ではアルファロメオ・ジュリアに次いで第二位!!!メルセデスEクラスにもまさかの完勝!!!もはや「セダンは安心だから」と言ってられる時代じゃなくなっているのか? ユーロNCAP無敵の帝王といえばボルボ、マツダ、ジャガーの旧フォード勢ですけども、SUV同士の評価に限ればティグアンが最強!!あのプリウスにも負けちゃうボロクソワーゲンがクラスの頂点に立つなんて!!

  「VW(あと三菱とスズキ)に関するデータは鵜呑みにするな!」というご意見もあるでしょうけど、2014年に日本の研究機関にガソリンターボの排ガスの劣悪な処理機構を指摘され、2015年にアメリカの研究機関にディーゼル排ガステストを意図的に無効化するシステムが暴露されてますから、2016年にユーロNCAPに特殊車両を提供!!なんてことは・・・そこまで不祥事は続かないとは思いますけどねー。

  北米で今も根強い人気で販売されるピックアップトラックのシャシーに、たっぷりサイズのボデーを載せた設計から始まったSUVの歩みですが、当初は「SUVが世界を轢きつぶす」としてその操縦安定性の悪さから都市部への拡大にはいくらかの批判もありました。2トン超級のボデーに5Lオーバーの大排気量エンジンが街中を我がもの顏で走れば、当然に車種別の事故率でも上位になっていて、北米では統計を交えた批判本も出てます(日本じゃ考えられない!!!)。

  北米のSUVは「危険で燃費が悪い」です。こういうクルマは日本では目も当てられないくらいに売れないですけど、それでも不思議な存在感を発揮します。SUVに限らずスポーツカーやマッスルカーなどなど。アルコールやタバコ、飽和脂肪酸(動物性脂肪)などなど「不健康なもの」を求めるメンタリティが同じように無意識の内にガソリンを垂れ流すクルマをも好んでしまっているようです。ロータリーエンジン車が復活?だったりフェアレディZが作られ続けたり・・・。

  北米のピックアップトラックは今も専用のラダーフレームシャシーに大排気量エンジンをマウントして販売されています。もはや世界でアメリカにしか許されないであろう設計!!(日本にだって軽規格があるさ!)。北米ナンバー1の売り上げを誇る車種といえばフォードのF150というピックアップトラックで、これをベースにしたエクスペディションという大型SUVがあります。環境対応にも積極的なフォードなので最近ではV6の2.7Lエコブーストも設定されています(2.7の6発ターボのどこがエコなんだ!!!スカGか!!)。

  日本のSUVでもアメリカの伝統的なラダーフレームを継承しているのが、ランクルとパジェロ、それから小型ボデーに大きめのエンジンで武装するスズキの旧型エスクード(現在も販売継続)です(あとはジムニーシエラとジムニーもラダーです)。ジムニー以外のモデルは燃費の悪さが敬遠されて日本では少数派になってまして、日本のSUVといえばもっぱら量販車と共通のプラットフォームを使う「なんちゃってSUV」が主流です。

  1997年にトヨタが北米向けに開発した「ハリアー」が大ヒットしました。北米でベストセラーになっていたカムリのシャシーを使ったことで高い信頼性を確保し、開発コストも低減できるアイディアモデルでした。カムリ譲りの走行安定性が高い評価を得て瞬く間にラダーフレームSUVから市場を奪い始めます。これに追従したのが日産で2002年にティアナをベースとする「ムラーノ」を発売して日産自慢の3.5L自然吸気VQエンジンを搭載して人気となります。トヨタも2003年の2代目ハリアーでは3.5Lを搭載して対抗し、瞬く間に北米市場を席巻します。

  同時期に発売されたBMW・X5(2000年〜)など、SUVのヒット車が連発したこともあって、北米と日本からクロスオーバー・ブームが広がります。当時はまだまだ衝突安全基準の評価(NCAP)が黎明期で広く報じられることもなかったですが、北米市場がいち早く始めた「評価」によって売れ筋のSUVが片っ端から低い成績で、堅牢なイメージがあるBMW・X5でさえも部分によっては「POOR」評価を受けるなど、SUVの弱点が噴出しました。ちなみに「SUVが世界を轢きつぶす」という本もこれを受けて2004年に書かれました。ただし衝突安全の評価は一般ユーザーの認識にまでは浸透せず、売れ行きは今も右肩上がりです。

  北米・日本でのブームが、中国の市場拡大によってさらに加速し、中国向けにアメリカ仕様よりも小型になったコンパクトSUVが、今度は成熟・飽和市場であったはずのフランスやイギリスに飛び火します。ハリアーも2013年の三代目からはカムリではなく、北米カローラ(オーリス)のCセグをベースに設計され、日産もムラーノを撤収し新たにCセグのセントラ(シルフィ、パルサー)をベースとしたローグ(エクストレイル、キャッシュカイ)による世界同時発売を行っています。同じようなCセグベース設計でマツダもCX5を、スバルもフォレスターとエクシーガクロスオーバー7を投入しています。

  しかしこれら2012年頃から登場した日本メーカー群による「なんちゃってSUV」は、乗用車トップレベルの安全基準を得ることはできておらず、いずれもベース車に衝突安全基準で劣るというデータが出ています。縦方向に拡大したボデーは当然ながら堅牢さは弱まりますし、大径タイヤを支えるタスクが要求されるシャシーに、ストロークが長めのサスペンションコイルの組み合わせも、当然ながら衝突による衝撃入力に対する強化を施す必要のある「角度」が水平方向からより多くなりますので、軽量化との両立が難しくなります。キャビンを大きくし、冠水路面の走行を可能にする車高を確保することで、通常走行時の安全性が犠牲になっているという宿痾から逃れられません。なぜかこのような背反で二項対立的な局面になるとそれ以上の追求をあっさりと諦めるのが日本メーカーの特徴なんですよね・・・。

  SUVの弱点はシャシーやボデーの強化が難しいだけでなく、開口部が広く大型化されているリアゲートが究極の弱点だと言われています。こういうコトを書くと、どんなクルマだってダンプに突っ込まれればジ・エンドだ!!なんてNCAPの存在価値そのものを否定してくる人もいますが・・・。私はマツダというメーカーが好きなのですが、その一番の理由はハンドリングでもスタイリングでもなく、安全性能に対する妥協ない努力が感じられるからです。そんなマツダでもCX5は低い得点でした。同じように安全性で信頼できるメーカーであるボルボ、スズキ、日産、ホンダに関してもやはりSUVでは大きく点数が下がります。(ス◯ル、メル◯デス、B◯Wは車種によって差が大きいです。「安全」を完全にナメているスコアを平気で出すところが嫌いです・・・700万円もするあの新型フルサイズセダンも酷いことになってますよ)

  さて・・・冒頭の話に戻りますが、VWです。安全性のアベレージが圧倒的に高いDセグのさらに頂点を目指して設計されたアルファ・ジュリアも見事ですけども、それとあまり遜色が無いレベルのスコアを出した新型ティグアンも素晴らしい!!!昨年末から苦境にあるVWが、存続を賭けて多少はコスト度外視してでも「安全なSUVを作ろう!」と努力したようです。ドイツでは今年の春から発売されていますから、タイミング的にも「再出発」の思いが強く隠ったモデルなんだと思います。まだ日本価格は一切公表されていませんが、VW買うならコレじゃないですか?デザインも渋くていい!!グレーメタリックで!!

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